東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)122号 判決 1990年9月05日
東京都江戸川区平井四丁目七番一三号
原告
有限会社進円商会
右代表者代表取締役
島村好子
右訴訟代理人弁護士
岩﨑精孝
東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号
被告
江戸川税務署長
横山義男
右訴訟代理人弁護士
高田敏明
右指定代理人
合田かつ子
同
山口新平
同
林広志
同
小野雅也
同
田川博
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度の法人税について昭和六二年三月二六日付けでした更正のうち所得金額一億二一六九万六五四六円、納付すべき税額五二四三万三三〇〇円を超える部分及び被告が同日付けでした過少申告加算税賦課決定のうち過少申告加算税額四九一万七〇〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、原告の昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、昭和五九年七月三一日に所得金額を四三万四二一八円、法人税額を一〇万八〇〇〇円とする確定申告を、次いで同六〇年七月九日に所得金額を九二七万〇〇五四円、法人税額を三〇〇万三四〇〇円とする修正申告をそれぞれしたところ、被告は、同六二年三月二六日、所得金額を一億六八一八万四四五六円、法人税額を七三一五万四九〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税額を六九九万円とする同税の賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。
2 原告は、本件更正及び本件決定に対し、昭和六二年四月一四日に異議申立てをしたが、同年一一月二五日にこれを棄却され、次いで、同年一二月二三日に審査請求したが、同六三年六月二一日にこれを棄却された。
3 しかしながら、本件更正のうち所得金額一億二一六九万六五四六円、納付すべき税額五二四三万三三〇〇円を超える部分及び本件決定のうち過少申告加算税額四九一万七〇〇〇円を超える部分は違法であるから、右各部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2の各事実は認め、同3は争う。
三 被告の主張
1 原告の本件事業年度の所得金額
原告の本件事業年度の所得金額は、次の(一)の申告所得額と(二)の土地の受贈益計上漏れ金額の合計額の一億六八一八万四四五六円である。
(一) 申告所得額 九二七万〇〇五四円
原告が昭和六〇年七月九日被告に提出した本件事業年度の法人税修正申告書に記載された金額である。
(二) 土地の受贈益計上漏れ金額 一億五八九一万四四〇二円
(1) 原告は、昭和五九年三月二八日及び同月二九日の二回に分けて、島村延壽(以下「延壽」という。)から、東京都江戸川区平井三丁目九八三番一の宅地一一四四・四四平方メートル、同所九九七番二の宅地五〇・八七平方メートル及び同所一〇七一番二の宅地九九・三八平方メートル(以下、これらの土地を「本件土地」という。)を売買代金合計六五万三九〇八円で買い受けた(以下、この売買契約を「本件売買契約」という。)。
(2) ところが、本件売買契約の代金額は、土地三・三平方メートル当たり一五三一円ないし三二五七円と時価と比べて著しく低額であるため、その時価と右代金額との差額は、原告の延壽からの受増益と認められ、法人税法二二条二項の規定により本件事業年度の原告の所得の計算上益金に加算されるべきものである。
(3) 本件土地の時価を、昭和五九年一月一日を基準日とする公示価格及び相続税財産評価基準における路線価に基づき、必要な時点修正等を加えて評価すると、その合計額は一億五九五六万八三一〇円となる。
なお、本件土地には、延壽が従前林富士雄(以下「林」という。)に賃貸していた土地六一・九二平方メートル(以下、この土地を「本件係争土地(一)」という。)及び鳥井實(以下「鳥井」という。)に賃貸していた土地一二四・〇八平方メートル(以下、この土地を「本件係争土地(二)」という。)が含まれているが、本件係争土地(一)については、昭和五八年一二月に賃貸借契約の終了によって延壽が林から返還を受け、本件係争土地(二)については、昭和四九年に延壽が鳥井からその借地権を買い取っている。したがって、これらの土地は、自用地として、その時価を合計六六四一万一一一四円と評価すべきものである。
2 本件更正及び本件決定の適法性
右のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は一億六八一八万四四五六円であるから、本件更正は適法である。
また、本件更正により新たに納付すべき税額について、国税通則法(昭和六二年法律九六号による改正前のもの。)六五条四項に定める正当な理由は認められないから、同条一項及び二項により右税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に、右税額(本件更正により新たに納付すべき税額)のうち五〇万円を超える部分の金額(一万円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額を加算して算出した過少申告加算税を賦課する本件決定は適法である。
三 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張1(一)の申告所得額は認める。
2 同1(二)(1)の本件売買契約の事実及び同(2)の本件土地の時価と売買代金額との差額が原告の所得の計算上益金に算入すべきものであることは認める。
3 同1(二)(3)の事実中、本件係争土地(一)及び(二)を自用地として評価した場合に本件土地の時価が合計一億五九五六万八三一〇円になることは争わない。本件係争土地(一)及び(二)が延壽の自用地であったとの点は否認する。
本件係争土地(一)については、昭和四九年三月二一日に、島村好子(以下「好子」という。)が、延壽の承諾の下に、林からその借地権をその地上建物一棟とともに買い受けたものである。また、本件係争土地(二)については、同年七月三〇日に、好子が、同様に鳥井からその借地権をその地上建物二棟とともに買い受けたものである。
以来、好子はこれらの土地上に借地権を有しているから、本件売買契約当時における本件係争土地(一)及び(二)の価格は、被告の主張する更地価格六六四一万一一一四円から右借地権の価格に相当する七〇パーセントを控除した一九九二万三二〇四円と評価されるべきである。
4 同2は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 被告の主張する本件更正及び本件決定の根拠事実については、本件係争土地(一)及び(二)の価格を合計六六四一万一一一四円と評価すべきものとする点を除き、すべて当事者間に争いがない。
二 本件の争点は、専ら本件係争土地(一)及び(二)の上に、本件売買契約当時好子が借地権を有していたと認められるか否かの点にあるので、この点について検討する。
1 本件係争土地(一)について
原告代表者島村好子は、その代表者尋問において、昭和四九年三月二一日、延壽の子である同人が個人の立場で、本件係争土地(一)の借地権を同土地上にあった店舗共同住宅一棟と共に林から購入し、その際、同建物を契約後引き続き一〇年間は林に使用させ、その間の賃料相当額の総額と右の借地権及び建物の代金額とを相殺することとし、林との間でその趣旨を明らかにする書面として覚書(甲二号証)を作成し、その後同年七月には、本件係争土地(一)及び同(二)の全体について土地賃貸借契約を延壽との間で締結し、土地賃貸借契約書(甲五号証)を作成したと供述している。
しかし、成立に争いがない乙三号証(建物登記簿謄本)によれば、好子が林から買い受けたとする右建物は、その後も林の所有名義とされたままで、昭和六一年六月に取り毀されたこととなっており、しかも、右好子の供述によれば、この取毀しも林自らが行ったものであるというのである。また、右覚書(甲二号証)の内容も、好子の供述するような借地権の売買の合意を意味するものと解するには甚だ疑問の多いようなものであり、現に証人岡村一重の証言によって成立の認められる乙九号証(林の右岡村に対する申述録取書)では、林の方では、この覚書にある「林名義の家屋を好子が買い受ける」との記載部分については、好子からそのように書いてくれと頼まれて書いたに過ぎないと供述しているのである。更に、好子が昭和四九年に延壽との間で作成したとする土地賃貸借契約書(甲五号証)についても、成立に争いのない乙七号証(印紙税実用便覧)によると右契約書に貼付されている印紙は昭和五〇年四月以降になって発行された図柄のものであると認められることからして、その主張するような時期に作成されたものではないことが明らかなものといわなければならない。しかも、そもそも、この昭和四九年三月の時点で林と好子との間で成立した合意の内容が好子の供述するよなものであったとすれば、林の方では、自己の有する右借地権とその地上建物とを単に一〇年後に好子に無償で譲渡するのと変わりがないような合意をしたということになり、特段の理由がない限り、このような一方的に不利益な契約に応じることは極めて不自然なことといわなければならない。
以上のような事実からすれば、原告代表者の前記供述には種々の疑問とすべき点があり、その内容は到底措信できないものといわなければならない。
かえって、右岡村証人の証言によって成立の認められる乙八号証、前掲の同九号証、成立に争いがない乙四号証によれば、林は、延壽から東京都江戸川区平井三丁目九八三番地の土地のうち三七・五坪を貸借し、右土地上に自宅建物一棟と賃店舗共同住宅一棟を所有していたところ、昭和四九年ころ、同人との間で、本件係争土地(一)を賃貸借期間が満了する昭和五七年末に延壽に無償で返還し、その代わりに自宅敷地部分の底地権を時価より相当に安い三・三平方メートル当たり三万五〇〇〇円で延壽から譲渡してもらうとの合意が成立したものであり、林は、その後右合意に従い、昭和五五年ころには本件係争土地(一)上の建物を第三者に賃貸することやめて空き家とし、昭和五七年一二月末ころに自宅敷地の所有権を延壽から譲り受けた時点以降はその賃料を全く支払っていないことが認められる。
これらの事実によれば、延壽は、昭和五七年一二月末ころには賃貸借期間満了により本件係争土地(一)を林から返還され、同土地部分の借地権は右時点で消滅したものと認めるのが相当であるから、昭和五九年三月二八日当時、本件係争土地(一)は延壽の自用地であったというべきである。
2 本件係争土地(二)について
原告代表者島村好子は、その代表者尋問で、昭和四九年七月三〇日、好子が、本件係争土地(二)の借地権を同土地上の建物二棟と共に鳥井から買い受けたと供述しており、また、右尋問により成立の認められる甲四号証の一(売買契約書)の買主欄及び同号証の二(念書)の末尾の買主欄にはいずれも「中西好子」(好子の当時の氏名)が買主として記載されている。
しかし、右念書(甲四号証の二)のうち鳥井が記載した冒頭部分では右の買主は「島村延壽」とされており、証人鳥井實の証言によれば、鳥井は、昭和四九年ころ、本件係争土地(二)上の建物を第三者に売却しようと考え、土地の賃貸人である延壽の承諾をとるべく当時同人の土地の管理をしていた好子に相談したところ、同人から右建物は地主以外には売却できないと言われたので、これを地主である延壽に売却することとしたものであり、右甲四号証の一の買主欄の記載が「中西好子」となっているのは、好子の要望によるものであり、鳥井としては、好子が延壽の娘であって当時本件係争土地(二)の管理をしていたことから、格別の支障も生じないものと思ってこのような記載をしたに過ぎないものであることが認められる。
したがって、前記原告代表者の供述は措信できず、むしろ、延壽は、昭和四九年七月末に本件係争土地(二)の借地権を鳥井から買い受け、借地権は右時点で消滅したものと認めるのが相当であるから、昭和五九年三月二八日当時、本件係争土地(二)は、延壽の自用地であったというべきである。
三 以上のとおり、本件売買契約当時、本件係争土地(一)及び(二)にはいずれも借地権が存在していなかったのであるから、被告がこれらの土地を延壽の自用地であるとの前提の下にその時価を六六四一万一一一四円と評価し、延壽から原告への土地受贈益が合計一億五八九一万四四〇二円であるとしたことに違法はなく、これを前提としてした本件更正及び本件決定にも違法な点は認められないものといわなければならない。
よって、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 市村陽典 裁判官 小林昭彦)